ドラマ「愛していると言ってくれ」
TBSドラマ「愛していると言ってくれ」
放送:1995年7月7日~1995年9月22日(毎週金曜日)
原作・脚本 北川悦吏子
出演:水野紘子 常盤貴子
榊晃次 豊川悦司
榊 栞 矢田亜希子
矢部健一 岡田浩暉
吉田マキ 鈴木蘭々
・・・他
これは19年も前のドラマである。
平成に変わって6年、世紀末まであと5年。
バブルが弾けて間もない頃。
主題歌の「LOVE LOVE LOVE」も大ヒットした。
内容は・・・
幼いころに聴覚に障碍を持った新進画家の榊晃次と、女優の卵、水野紘子が織りなす物語。
両者に共通する、主演が“聾唖者”であり、ドラマ内で自然と手話が登場することで、視聴者が“手話”に関心を寄せ、おそらく日本全国で手話サークルへの入会者を爆発的に増やしたきっかけの番組でもある。
しかし、“聾唖者”を前面に押し出したドラマであったが、聴覚に障碍を持った人の権利や尊厳を獲得する、と言った啓発モノではなく、純粋なラブストーリーだった。
手話ドラマとして、代表的な一つの作品でもあるが、当時、このドラマがきっかけとなり、ただの“興味本位”だけで、手話を学ぼうとする人を多く生み出した、と不満を持ったものだが、最近、スカパーで初めての再放送、19年ぶりの視聴に触れ、ドラマ性の深さに改めて感動したので、今回触れてみたいと思う。
手話の登場するドラマは、
・手話の部分は字幕でセリフを表す場合。
・会話の相手の健聴者役が、聾唖者役の表す手話を読みとり、代わりにセリフを言う場合。
・健聴者役が喋った後、再び同じ内容を手話で示す二重のセリフ。
・またはその逆に手話で示しておいて、改めて言葉で同じセリフを発して、視聴者に伝える方法がある。
しかし、実際の手話とセリフが微妙に違うケースがまれにある。
脚本家は、ある程度手話を学ぶのであろうが、手話に訳した時のことを考えながら台本は書けない。手話単語の数は、日本語単語全てに該当するわけではなく、また音声(擬音など)としての日本語特有の言い回しが、手話での表現に限界を持たせてしまうからだ。
あくまでも自然発生するセリフに合うように、一番近い意味合いを持つ手話を持ち出し、コーディネートしなければならない。
このドラマでどうしても手話の読みとれないシーンがあった。
本放送当時もそうだったが、現在、30年以上も手話に携わってきて、理解出来なかった手話表現を、反省の意味と、実際の手話とセリフとの違いを比べる意味で、今回の記事にさせていただきます。
第二回 「約束」
紘子は、自分が出演する舞台のチケットを晃次に渡し、観に来てもらうことを約束。
しかし、それを知った晃次の義妹・栞の邪な妨害により、約束は実現出来なかった。
公演後、晃次の代わりに、栞が劇場にやって来る・・・
紘子が興味本位だけで兄に近づいてきた、と邪推する栞が、紘子に喰ってかかる。
台本を再現 (おそらく)
栞「あの、兄にちょっかい出すの、やめていただけません!?」
紘子「(困惑しながら)・・・そんな、私、ちょっかいなんて」
栞「あなた、なんにも考えないで、自分の事だけ押しつけているじゃない。兄は聴こえないのよ。芝居観に来ても面白いわけないでしょ?」
紘子「でも、約束したから」
栞「約束って、どうやって約束したの?兄は口がきけないのよ。」
紘子「手話で」
栞「・・・あなた、手話、出来るの?」
紘子「少しは・・・」
栞「じゃあ、これ、何言ってるかわかる?」
とても早い手話をする栞。
栞の手話を呆然と見るだけの紘子。
手話をやり終えた栞。
栞「何言ったか、わかった?あなたのような人が遊び半分で兄に近づいて来られても、こっちは迷惑するだけなの。いいかげんにして。きまぐれに手話を覚えていい気になるのやめて。、兄は迷惑するだけなの・・・(略)」
動画でないので分かりにくいかも知れないが、ストップモーションで栞の表した手話(下線部)を順番に写真画像で解説。
雑で、とても早い手の動きでした・・・
右手人差し指で、紘子を指さす。
意味は
「あなた」
親指、小指を立てた両手の、小指の先をこするように近づけたり離したりする。
↓
意味は「似ている」
または「~のような」
英語のlikeと思ったらイメージしやすい。
後ろの照明とかぶり、ハレーションを起こして分かりにくいのでUPしたみた。
小指を立てている。
意味は「女性」
この時は、紘子に対して示している「女性」なので「女」または「人」というその人を特定した言い方になる。
両手の掌を胸の前に、互いに上下させる。
↓
胸踊る、というイメージで「喜ぶ」「楽しむ」という意味になる。
人差し指を立て、顔の横で互いに、前後に倒したり戻したり。
チャンバラ、というイメージから
意味は「遊ぶ」
右手で胸から脇あたりを上へはらう。
意味は「分からない」「知らない」
中指を立てている。
意味は「兄」
目上なので、やや上にあげる必要がある。
下に下げると弟になる。
※外国では、前に突き出すと挑発になるので注意。
分かりにくいが、人差し指を立てて、手前に引き寄せている。
UPにしても、早すぎて分かりにくかった。
意味は「来る」
逆に前方へ突きだすと「行く」になる。
ここでカメラアングルが急に変わる。
栞の手が動いている・・・
そして・・・
左手の掌に人差し指を立てた右手を叩くように一度弾ませるのが唯一見えた。
意味は「~だけ」
おそらく、栞の左側からのアングルから撮った手話の動きを、栞の背中ごしでのアングルでも同じ手話を撮り、困惑している紘子の表情を捉える演出だったのか。
悲しそうな眼の紘子がよく表れている。
黄色い文字で示した部分をつなげてみる。
「あなたの、ような、人(女)は、楽しみや、遊びで、分からない、兄のところに、(近づいて)来た、だけ」
より分かりやすい言葉に換えてみる・・・
「貴女みたいな人は、(自分が)楽しんだり遊びだけで、(何も)分からない兄に近づいているだけ」
手話には、主語・名詞の後につく、『は、が、に、を、へ、の』などの助詞はない。
※指文字で表す人はいらっしゃいます。
「あなたが」「あなたは」「あなたに」「あなたを」
赤い文字の部分は、文章の流れや、指さす方向などで意味合いを捉えなければならない。
“方向”について、ここで笑い話・・・
①「あそこに、たっているのが、わたしの、かれ、です」
赤い文字を変えてみる。
②「あそこが、たっているのが、わたしの、かれ、です」
助詞を変えるだけで、意味が全然違うが、手話では
①は、“かれ”がたっている、場所を指させばいいし、
②は、ズバリ、“かれ”の股間を指さす。
手話での指さす方向で、英語で言う、主格や所有格、目的格を区別する。
話を元に戻す。
手話をやり終えた栞が改めて言ったセリフ
「あなたのような人が遊び半分で兄に近づいて来られても、こっちは迷惑するだけなの。」
とは、言ってないのである。
スローモーションにして何度も何度も繰り返してみて、やっと手話の意味がつかめたのである。
この番組が栞役の矢田亜希子さんのデビュー作。
下手な演技が鼻につく感もあるが、一生懸命に覚えたセリフと手話は、決していい加減なものではないと思う。
間違った手話をしているわけではないと思うので、栞が口にしたセリフが手話とは違うのは、読み取りの出来ない紘子を見下した意思の表れだ、と演出家の狙いなのかも知れない。
手話に関心のない方が読むと全く面白くない記事ですが、手話は、私にとって、人生の中で重要な位置にあるので書庫も作ってます。今一度、勉強し直すつもりです。
この番組については、また後日、改めて考えさせられたシーンがあるので記事にさせていただきます。