ジークフリートの遊ぶログ

そそっかしくて、キーボードタッチのミスに気が付かないことが多く、過去に投稿した記事も観直しながら編集しています。

「ケイコ目を澄ませて」

 

「ケイコ目を澄ませて」

 

“耳を澄ませて”

ではありません。この言い回しに聴覚でなく、視覚に重きを置いた映画かなと思われました。

ブロ友Genaさんの記事によって上映されていることを知った作品です。

 

 

東京では昨年1216日に公開されたのですが、口コミによる評判で、上映館が全国に広がりました。

聴覚に障碍のある女性プロボクサーの経験による著作『負けないで』から着想を得た映画でしたが、単なるお涙頂戴もの。聴覚障碍者に対する啓蒙的なもの…

という先入観は持たずに臨みました。

 

最近、手話が登場するドラマや映画が目立つ?と思われます。

昨年から、手話モノのドラマが2本続けて放送されています。

手話が出てくる映画では、昨年『CODA』や『ドライブ・マイ・カー』がありましたし、最近では『アバター』でも“手話らしき”ものが出てきました。

 

主演・岸井ゆきの

NHK朝ドラまんぷくでの出演しか存じ上げなかったのですが…

 

 

…ボクシングに、手話に、とても難しい役をこなし、2023年のエランドール新人賞を受賞しました。

 

 

役作りとして筋肉も付けたのでしょう。体つきはボクサーそのものでした。

ミット打ちやステップ、ジャブのシーンは目を見張るものがありました。

ボクシングジム存続の危機。本業であるホテル客室の清掃。ましてや自らのボクシングに対する気持ちにも蓋をしてしまうような何処か心を閉ざしている感が見受けられたのは、音のない世界を生きるケイコの心境や歩調を合わせているかのような演出でしょうか。派手さを示す展開はなかったです。

岸井ゆきの演じるケイコを取り巻く、他の役者たちの演技がとても光ってました。

 

パンフレットは…

 

 

劇中でケイコが書き込んでいるノートを模しているのでしょう。

 

 

 

手話のシーンには字幕が付いていて、セリフを追いかけるばかりではなく、演者が手話を示した後、画面が黒くなって白文字でセリフを表す、というサイレント時代の映画を思わせる技法も用いられていました。

 

ボクサーとして成長していく過程もなく、ケイコが音のない世界で苦悩していく物語を全面に押し出していくものでもなく、人間として、ケイコが生きている普通の姿が、押しつけがましくなくスムーズに目に脳に入ってきました。

 

手話が出てくるシーンには全て字幕が付いているものと思ってましたが、ケイコが友人たちとランチをしているシーン…

 

 

…では字幕が無く、彼女たちが何を話しているのか、手話を知らない人は分からないと思います。

 

長い間、直接手話と携わってなく、読み取りの力が落ちてしまい、彼女たちの早い手の動きについていけないのと、分からない単語もあり、完全に理解出来たわけではないのですが、所々の手話単語、表情や仕草で分かったのは…

「ねえねえ、聞いてくれる?」

で始まった会話…。

仕事上でトラブルがあって支払いのことが難しい。それに対して相槌を打つ隣の女性がケイコの手相を観て、負けず嫌いを表していた線が綺麗になっているのを見つける。それは年齢的にも30歳だから、というものではない…

と、いったことを話している時に、ケイコは自分の手にある結婚線(おそらく)に興味を持ち、自然と笑顔が出てきます。

 

こんなところだと思います。

 

コロナ禍によるマスク越しに吐かれる言葉は届かないし、耳が聞こえないことで、相手と上手くコミュニケーションが取れないケイコに、モドカシさは感じない、と言った、とても不思議な魅力のある映画でした。

 

そうそう、ケイコが本業にしているホテル客室の清掃のシーンで、ペアを組んでいる青年がベッドメイクするシーンで、ただ単にシーツをマットに押し込んでました。

それはないだろう!

と、心の中で突っ込んだのですが、やがてケイコが青年に、シーツのちゃんとした敷き方を丁寧に指導するシーンに、ケイコが成長していることや、対戦相手からの挨拶によって、ケイコの表情が変わり、新たな未来を踏み出すのかな、という期待感を思わせるラストシーンにこみ上げるものがありました。

 

観る人、それぞれに感じ方があると思います。自分的には高評価に値する映画でした。

劇場での上映はもう少なくなりました。アカデミー賞を取れば、再上映もあるかな?

と期待しています。

 

※カフェテラスで、ケイコたち友人が何を話していたか、完璧に分かる人はいらっしゃるでしょうか?または脚本を知りたいです!