ジークフリートの遊ぶログ

そそっかしくて、キーボードタッチのミスに気が付かないことが多く、過去に投稿した記事も観直しながら編集しています。

西村京太郎「四つの終止符」その2

 
列車の時刻表トリックを始めとするトラベルミステリー作家のイメージが強い西村京太郎氏だが、最初からトラベルミステリーを書いていたわけではない。
元々は、社会派ミステリー作家として文壇デビューしていた。
 
社会的弱者が受ける理不尽な現状をストーリーに盛り込み、暗欝とした読後感をもたらす作品もある。
 
その中の一つが
 
「四つの終止符」
 
昭和39年発表
 
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      講談社文庫
 
聴覚に障碍のある佐々木晋一。母親を毒殺した容疑で収監され、獄中自殺する。
彼の後追い自殺するホステス・幸子。
この事件を追う幸子の同僚と新聞記者。
 
耳が聴こえないことで生じた悲劇を取りこんだミステリー仕立ての物語になっている。
 
過去に二度の映画化と二度のテレビドラマ化されているが、今回は2001年に制作・放送されたものを紹介。
 
※スカパー・ファミリー劇場で放送されたものを、直接画面を撮影。
 
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出演:河合我聞
   かたせ梨乃
    
   西村和彦
   美保純
   大鶴義丹
 
玩具工場で働く晋一(河合我聞)は、バーに通い、手話を使ってホステスの幸子(高橋かおり)と心を通わせていた。
 
客とホステスの枠を越え、私的なことまで打ち明ける晋一
それを親身になって応える幸子
 
二人は明日、ピクニックに行く約束をする。
 
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 幸子が使っている手話・・・
 
顔を時計の文字盤に見立て、立てた右手の二本指は長針と短針を表し“正午”と言う形から“昼”と言う意味となる。
 
翌日・・・
 
病弱の母親がいる晋一は、幸子にどうすればいいか相談する。
 
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 ・・・手のひらを自分に向けている晋一の手話
 
すぼめた指を自分に向けて広げているのだが
“言われる” “言っている”
という受け身の意味。
 
字幕では『かけたくないって』
言葉も「かけたくないって」
 
で終わっているが、母親の言葉として“言うんだ”と、手話のみの動きを付属させている。
 
・・・晋一は、せめて母親の今度の誕生日に何をプレゼントすればいいか幸子に教えを乞う。
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 ・・・二人の会話の中で“母親”は立てた小指だけで確立されている。
 
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・・・幸子は、栄養価の高い“はちみつ”を薦める。
 
晋一は教えられたまま自然食品専門店
『ルカ』(店長・美保純)のはちみつを買い、母親に渡す。
 
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 ・・・晋一からのプレゼントに喜ぶ母親。
 しかし・・・
 
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・・・母親は死んでしまう。
 
はちみつの中にヒ素が入っていたのだ。
 
疑いは、はちみつを買ってきた晋一に向けられる。
 
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捜査を進める刑事(東野英心)
母親の主治医・大坪(山田吾一)
 
 
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 ・・・取り調べには手話通訳がついた。
 
開いて下に向けた左手。その下から右手の人差し指を振りながら上げていく仕草は“理由”を表している。
他に“意味” “何故”という意味もある。
 
「はちみつを買ったのは何んでだ?」
 
と言う刑事の問いである。
 
警察は、ホステスの幸子と一緒になるには、病気の母親が邪魔だから、毒殺した、と見ている。
 
しかし・・・
 
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「母を殺してなんかいません」
 
立てた左手の小指で母親を示し、それを右手で殴るような仕草で
“殺す”と表している。
 
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・・・声にならない声で涙ながらに叫びながら否定する晋一
 
警察は耳を傾けようとはしない・・・
 
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 ・・・無実を信じる幸子
幸子を支える先輩ホステス・時枝(かたせ梨乃)
この事件に関心を持つ新聞記者(西村和彦)
 
実は幸子には、耳の不自由な弟がいた。
しかし、自分の不注意の為に事故で亡くしている。
ずっと自分を責めていた幸子は、晋一に弟の姿を重ね、親身になっていたのだった。
 
晋一はちみつを薦めた自分を責める幸子
晋一を救う為に弁護士に依頼するが、無実を勝ち取れる要素がない。
だったらいっそのこと、病弱の母親を思い図り、安楽死させる為にヒ素を入れたとすれば、例え刑が確定しても情状酌量により、執行猶予となる可能性は高い。さすれば、すぐに獄中から出られる。つまり裁判には勝てる、
という考えを勧められる。
 
面会に行った幸子は渋りながらも、その考えを晋一に伝える。
 
無実でありながら、母親殺しの汚名をかぶらなければならない晋一は、幸子にまで裏切られた、と失意のどん底に落ちる。
 
そして・・・
 
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 ・・・遺書をしたためて自殺する。
  
遺書を読む幸子時枝・・・
  
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 ・・・今までお世話になった人達の名前と感謝の言葉を読む二人。
 
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 ・・・自分に向けられた感謝の言葉を反芻する幸子
 
晋一は誰も恨まない、と言うが・・・
  
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 ・・・晋一を追い詰め、死なせてしまったのは自分のせいだ、と幸子後追い自殺する。
 
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 ・・・その手には警察に対する恨みの言葉が綴られていた。
  
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 “…警察に死んで抗議します”
  
・・・ただの関心に過ぎなかった新聞記者だったが・・・
  
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 ・・・今回の事件を知った聴覚障碍者の読者からの手紙で、真相を探る本腰を上げる。
  
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 ・・・晋一の無実を信じる、同じ聴覚障碍の男性からの手紙。
 
“耳が不自由なために就職活動が困難、やっと就いた仕事もクビになり、痴漢に間違われても信じてはもらえなかった…。
晋一さんは無実だと思います”
 
この手紙を読んだ記者の心が大きく動いたのだった。
  
ヒ素の入ったはちみつを売った『ルカ』の女主人(美保純)も世間から中傷を受ける。
女主人の弟(大鶴義丹)も追跡に加わり、彼らはついに事件の真相に辿りつく。
 
警察に進言する時枝たち・・・
  
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 ・・・しかし、状況証拠だけでは動けない、と強く突き放す警察。
 
その言葉に時枝の怒りが爆発する。
  
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 「状況証拠だけで晋一さんを逮捕したくせに!」
 「晋一さんもサっちゃんも、あんた達が殺したようなもんよ!」
  
彼らはこの後、警察を頼らずに真犯人に挑むのである。
 
表題の通り、結果的に4人の死人が出てしまう。
初動捜査のミスさえなければ、犠牲者は晋一の母親で止まっていた筈である。
無実の者が、国家権力でその人生を狂わされた悲劇を表したドラマだった。
地上波、衛星放送と何度も再放送されていることから好評なのだろう。
 
原作は昭和39年に発表されているが、翌年、聴覚障碍者が関わった事件が実際に起こっている。(蛇の目事件)
意思疎通の困難な者が事件に関わった時、取り調べや裁判のあり方を、この時既に西村京太郎氏は予見していたと思わざるを得ない。
 
この“蛇の目事件”いずれ記事にしたいと思います。
  
このドラマで刑事役の東野英心さん。
映画名もなく貧しく美しくのドラマ版で、道夫の役をやられていた。(昭和49年頃)
おそらく、聴覚障碍や手話の知識も残っていたであろう。
既に故人になられているが、この撮影当時、どんな気持ちで役に臨んだことだろう・・・?