遥かなる甲子園
まもなく夏の風物詩「全国高校野球選手権大会」が始まる。
全国から集まった高校球児が、憧れの甲子園で熱戦を繰り広げるのだが、かつて、その甲子園を目指して血のにじむような戦いをした球児たちがいた。
久し振りに本棚から取り出してみた。
1964年・アメリカで流行した風疹が、必然的か米軍基地のある沖縄にもその威力を示した。
今のようなワクチンも十分でなかった当時、風疹にかかった母親からは、聴覚に障碍をもった多くの子どもが生まれた・・・
第一巻の冒頭から目を疑うような描写。
ここで既に目頭が熱くなり、ここから先、読むのが辛くなるような感じがする。
主人公・武明は親の愛に守られ成長する。
ある時、近所のお兄さんが出場する甲子園へ応援に、と一人旅することから、この物語は始まっていく・・・
武明は野球の魅力にとりつかれる。
武明は、やがて福里ろう学校へ進学する。
福里ろう学校は、多くの聴覚障碍児の為に、単一学年のみ、中学から高校までの六年間しか存在しないことを前提に創立された学校である。
武明たち中学野球部の仲間達は、高校に進学すると同時にそこでも野球部を創立。甲子園を目指すのだが・・・
学校教育法の中では、ろう学校は特殊学校に含まれ、一般の高校とは区別されていた。
高等学校野球連盟、つまり高野連に加盟出来るのは、原則として学校教育法で定めた一般の高等学校のみ。
つまり、ろう学校の学生は、同じ高校生として野球をやっていても高野連には加盟出来ず、甲子園を目指す事はおろか、他の学校との対外試合も認められなかったのである。
なぜ、ボクたちは、
甲子園をめざしてはいけないんですか!?
武明たちの声なき叫びが胸を打ちます。
親が、教師が、学校が、高野連という厚い壁をぶち破る為の戦いが始まります!
この漫画は全十巻。
小学校時代の武明とその仲間たち、中学・高校・・・
そして社会人になった武明のその後まで描かれている。
しかも、普通のコミックスと比べても大判・A5サイズである。
しかもこれは、実話を元にしたフィクションである。
原作はこれ・・・
漫画では福里ろう学校、とあるが実際は北城ろう学校という実在した学校。
・・・小野卓司氏の『廃校の夏』が元になった漫画である。
されど、作画した山本おさむ氏自ら、手話を学び、綿密な取材の元に構成されたストーリーは一度読むと目が離せなくなる。
決して“お涙ちょうだいもの”で分類される物語ではない。
もし、戦争が起こらなければ、沖縄が米軍基地に占領されることもなかったし、アメリカから風疹を持ち込まれることもなかった!
そんな怒りも沸いてくるほど深読みしてしまい、どの部分を読んでも衝撃的・感動的なストーリー運びとなっている。
この物語は、テレビドラマ化と映画化、そして演劇にもなった。
テレビは『24時間テレビ 愛は地球を救う』の中の福祉ドラマ。タイトルは『叫んでも…聞こえない』
出演は斉藤由貴さん。1989年の放送。
画像はまたの機会にアップします。
演劇は関西を中心とした手話劇が巡回されたそうだ。
更に、学校教育法を盾にする“高野連”と北城ろう学校の戦いのエピソードは『奇跡体験!アンビリバボー』にも取り上げられている。