ジークフリートの遊ぶログ

そそっかしくて、キーボードタッチのミスに気が付かないことが多く、過去に投稿した記事も観直しながら編集しています。

西村京太郎「四つの終止符」その1

 
久し振りに手話に関する記事です。
 
西村京太郎という作家に対してどんなイメージを持っておられるだろうか?
 
   イメージ 1
             文庫版
  
  イメージ 3
             新書版
・・・トラベルミステリーや・・・
  
   イメージ 2
             文庫版
 
・・・〇〇が消えた! 〇〇が行方不明になった!
を全面に押し出した作品のイメージが主であるでしょうが・・・
  
結構好きで、よく読ませていただいているが、実は何十冊も持っているわけではない。
今回は、手持ちの中から数冊を取り上げさせていただいた。
 
テレビドラマ化も沢山されているが、実は私は、全く、と言っていいほど観たことがない。
三橋達也愛川欽也コンビの「土曜ワイド劇場」は時々拝見していたが、原作の方が断然面白い。
ドラマになると、俳優の顔ぶれで犯人の検討がついてしまうし、読んで想像させるような情緒的なものは取り払われ、また、トリックとなる過程が安易な映像で流され、興醒めしてしまうような演出が気に入らないのである。
 
ただ、登場する観光名所となる景観だけは読むより、映像の方が綺麗なのは確かではある。
 
唯一「消えた巨人軍」は、面白いと思っている・・・
 
藤岡弘、さんが、左文字進役で出演されているからだが、昨年久し振りに衛星放送で拝見して懐かしかった!
でも、このドラマでは佐文字進は探偵ではなく、刑事だけど。
 
ちなみに原作の十津川警部は、小柄で小太り、髪の毛の生え際が後退した中年、と設定されている。
もしかして西村氏本人がモデルだったのか?
  
氏のトラベルミステリーを拝読していると、トリックが時刻表であったり、列車の構造、駅の構造、駅名の解釈の違いなど、さまざまで、下手な旅行ガイドよりも面白い時がある。
 
かと言って氏は、最初からトラベルミステリーを書いておられたのではない。
 
今回、表題にあるこれ・・・
 
   イメージ 4
 
 「四つの終止符」
 
を紹介させていただきます。
 
昭和39年の発表。
 
東京郊外の (東京オリンピックを控えた賑やかな都心部ではない) 町を舞台にしたミステリー。
 
耳の不自由な青年・佐々木晋一は病弱な母と長屋で二人暮らし。
そして、場末のバーのホステス・幸子に親近感を抱いている。
意思の疎通が困難な晋一は職場で浮いた存在。耳が不自由である為、自分の声が聞こえず、健常者とは違う甲高い音声で発語をする晋一に、幸子は親身になって接客する。時にはお金を与えたりも・・・
 
同情なら、よしなさい、というママや先輩ホステス・時枝の言葉に、幸子は
 
『同情ではない』
 
と言い放つ。
 
実は、幸子には弟がいた。弟は聾唖者、耳の不自由な子だったのだが、自分の不注意の為に事故で亡くしている。
 
もし生きていたら晋一と同じくらいの年齢になっている筈で、弟に対する贖罪の意味もあったのだ。
 
晋一の母親・辰子は病弱で寝たきりの生活をしている。
そんな自分が晋一の重荷になってはいないか、と自殺を試みたこともある。
 
晋一は、巷で話題になっている栄養剤を買って母に与える。
ビンに入っていて、粉状のもので、スプーンですくって口に運ぶものである。
 
近所の人が、辰子が死んでいるのを発見する。
警察の検分によるとヒ素による中毒死”だった。
晋一の買ってきた栄養剤の中に、そのヒ素が入っていたのだ…
 
警察は晋一を取り調べる…
意思の疎通がスムーズにいかない。
晋一の思いは伝わらない。
 
ホステスの幸子と一緒になるには、病弱の母親が邪魔だから殺害した・・・
 
警察の見立てだった!
 
 
幸子は自分の貯金をはたいて弁護士を雇う。
勿論、無罪を勝ち取る為なのだが、
 
しかし勝てる要素がない、というのが弁護士の見解。
 
それなら、
 
病弱の母親が不憫で安楽死の道を選択した
 
と罪を認めれば、例え刑はついても、情状酌量により、執行猶予となる可能性が高い、というのだ。
何より本人もかつて自殺を試みたことがあるのだし・・・
 
幸子は、この考えを留置場の晋一に伝えに行くと、晋一は、信じてもらっていると思った幸子にまで裏切られた、と絶望感に陥り、遺書をしたためて獄中自殺する。
 
自分が晋一を追い詰めた、と幸子も後追い自殺する。
 
先輩ホステス・時枝は釈然としない。
そして、この事件はおかしい、と不振に思った新聞記者と共に真相を追う。
 
行きついた真相は!?
 
 この原作本をめくると、右下・・・
  
イメージ 5
                                 
    イメージ 6
 ・・・胸に突き刺さる作文が飛び込んでくる。
 
実は西村京太郎氏、聴覚障碍者向けの情報誌へ寄稿されるなど啓蒙活動を熱心にされている。
 
社会的弱者が受ける苦しみに対して、怒り、も持たれている。
松本清張氏にも負けないようなミステリーも書いておられるのだ。
 
氏は本来、社会派ミステリー作家として出発したのである。
 
イメージ 7
・・・日本に返還される前の沖縄を描いている
「ハイビスカス殺人事件」
アイヌの歴史を描いた「殺人者はオーロラを見た」
 
など、異色な作品もある。
  
本題に立ち返る・・・
 
この原作ではサラリと流しているが、警察の取り調べは、耳の不自由な晋一にとっては想像を絶するものと思われる。
時代は昭和30年代、警察の取り調べは拷問に等しかったのでは?
 
この作品、過去に二度映画化されている。
 
一回目は、昭和40年公開
 
「この声なき叫び」
 
この映画では晋一の役を当時デビューしたばかりの田村正和氏が演じておられるそうだが、私は観たことがない。
いずれ、スカパーで放送されるのを期待している。
 
そして、平成2年公開。
            
   イメージ 8
・・・チラシのみ持っている。チラシのみ存在だったか?
 
全篇モノクロ。
この映画は全国の公民館や福祉センターを主とした上映となっていた。
確か広島県では一律千円で、上映されている所なら県内何処でも入場出来るシステムだった。
 
しかしこの映画は、原作と違って、事件の真相を追うのは、先輩ホステス・時枝と新聞記者ではなく、晋一の祖父となっている。
 
印象に残っているシーン・・・
 
警察の取り調べは筆談。晋一に対して、
 
何で (なんで) 栄養剤を買いに行った?」
 
と、刑事は黒板に書いて質問する。
 
晋一は、この文章を読んで・・・
 
「自転車で」
 
と書くのである。
つまり、刑事が聞かんとするのは、
栄養剤を買った理由を尋ね、
動機に結びつけようとしていたのであるが、
晋一は黒板の
 
『何で (なんで) 』
 
の文字を“方法”という意味に捉えたのである。
 
イラついた刑事は
 
「自転車が薬を呑むかぁ? このボケ!」
 
と、晋一の首根っこをつかまえてテーブルに叩きつけるのである。
 
このシーン・・・
声にならない叫びをあげる晋一の姿に胸が痛んだ。
 
表題が示す通り、最終的に4人の命が失われることになるのだが・・・
 
この「四つの終止符」はテレビドラマにもなっている。
次回は、このドラマについて触れてみたいと思ってます。
 
予告編です。
  
      イメージ 9
  
以前、アナログ放送を録画してましたが、テープが見つからず、昨年スカパー(ファミリー劇場)で放送されたものを再録画したものです。